【夏休み企画】 ――連載2――  「親子で観るミュージカル」
脚本・演出家 石 塚 克 彦
舐めちゃいけない 子供の理解力

 リンダの劇場で私は、子供というのは人間のくらしや心理について、かなり深い理解力を発揮することをあらためて思い知らされた。それは子供の隣りに大人が生活感や人生について感応し、生理や心を動かしているからでもある。子供は、舞台からだけではなく、隣に座っている大人からも、五感を開き感じとるのである。
 実際、自分の子供の頃を想いかえしてみても、父と母とのかなり複雑で微妙なやりとりだって、ちゃーんと解っていたように思う。きっと大人の皆さんも自分の子供の頃をふりかえってみれば、思い当たるに違いない。
 私はそれから、大人と子供が一緒に観るミュージカルを何本かつくって来た。
 第一作目の河童を題材にした作品では、わざわざ子供もお母さんにも判らないだろう「結界(けっかい)」という言葉を登場させた。結界とはその関係者(修験者など)以外入ってはいけない区域・境界のことであるが、少年時代や若き日に忍者漫画を読んだお父さんなら解り、子供やお母さんに説明してやることが出来るのである。
 お父さんにも、自慢気に解説をしてやるチャンスをつくってあげたかったからである。そんな仕掛けをドラマの中にいくつか用意した。
 第2作目では、地球温暖化の現実とその仕組みをシーンやナンバーに組みこんだ。
 完全に解ってもらえないまでも、私の仲間の俳優たちが真剣に演じてくれたら、観る人の五感に残ってくれるだろう。そうすれば、一緒に観た大人の人生が加わって日常的に関心を深めてくれるに違いないと、子供たちの感性を信じるからである。
 あらためて言うと、私のつくるミュージカルは、大人と子供に一緒に観て欲しいミュージカルである。決して子供のためにのみつくる舞台ではない。
 少々わからないことがあったら、一緒に来た大人にたずねればよい。大人と子供が対話してくれる客席を私は望んでいるのである。
 そして私は、そんな大人と子供が会話できるため、幕開きからフィナーレまで飽きさせずに面白く観てもらうよう知恵をしぼらねばならない。何と言ってもミュージカルは、楽しい舞台でなくてはならないのだから。

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