【夏休み企画】 ――連載1――  「親子で観るミュージカル」
脚本・演出家 石 塚 克 彦
その切っ掛け

 私のつくるミュージカルは、大人と子供が一緒に観るミュージカルであって、子供のためだけの作品ではない。
 私は芝居の仕事を始めて以来、ずーっと子供向けのミュージカルなどつくる気は毛頭なかった。
 十数年前になるが、アメリカ西海岸で一番大きな芸術イベントを仕切っているワンリール(プロダクション)と組んで日米合作ミュージカルをつくり、日本とアメリカで一ヶ月ずつのツアーをおこなった。
 アメリカツアーは公演地すべてスタンディングオベーションの大喝采をあび、その評判がヨーロッパにも伝わり、オリンピック芸術祭に招聘された。スペインでの公演はヨーロッパの名優サラ・ベルナールが最後の舞台を踏んだことで知られる劇場・テアトロ・ゴヤであった。
 この合作ミュージカルは、スタッフ・キャストともに日本側とアメリカ側がきっちり同じ人数で製作され、そういう意味では文字通り日米対等の合作であり、当時元気だった故・野口久光さん(ミュージカル評論の第一人者)が史上初めてだと喜んでくれた。
 そして日本側の脚本・演出は私で、アメリカ側の脚本はブロードウェイでも知られているチャド・ヘンリーであり、演出は世界中で活躍している児童演劇の女性演出家リンダ・ハーツェルであった。
 リンダはアメリカでも他に例をみないであろう彼女専用の劇場を持っていた。それも国が半分の費用を出し、あとの半分は彼女を支援する人たちの寄付で建てられたものである。
 私はミュージカルを演出する相棒になるのだから、リンダの劇場に何度か足を運んだ。
 その時びっくりしたのは、児童演劇と言っても働きざかりの男である父親と子供が一緒に観劇に来ていることであった。そして、その内容も大の大人が充分にたのしめる深みのあるドラマであった。
 舞台の幕がおりたとき、一緒に来た父親に子供が質問したり、いま観た舞台について父子が話し合ってる姿を、客席のそこここに何組も目にしたのであった。
 私はその時、こんな舞台ならつくってもいいなと思った。働きざかりの父親までもがたのしむことの出来、子供も一緒にたのしめる舞台である。

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